吉田知那美のコラム Vol.1

Yoshida Chinami Column VOL.1

べきべき人間の多拠点生活

皆さんこんにちは。ネッツトヨタ北見、そしてロコ・ソラーレの吉田知那美です。
温かい日差しの中にも秋のひんやりと冷たく澄んだ空気を感じる季節になりました。

この度、「HPのリニューアルに伴いコラム連載をしてみませんか?」というご提案をいただきました。私自身、分野に限らずさまざまな職種の方のコラムを読むのが趣味でもあります。きっかけはカーリング選手になってからほぼ毎月搭乗するようになった日本航空(JAL)の機内に置いてある雑誌スカイワードで連載されている小説家浅田次郎先生のコラム(つばさよつばさ)を読んだことがきっかけです。浅田次郎先生の日常や取材で訪れた国々で感じたこと、見たこと、見舞われたハプニングやトラブルなどが赤裸々に、ユーモアたっぷりな文章で綴られています。「鉄道員」「壬生義人伝」など有名小説の数々を著す誰もが知る小説家ですが、その飾らない近所のおじさんの日常を見ているような親近感満載のコラムにいつもクスッと笑わせてもらっています。

今回、コラム連載のお話をいただいた際、初めに思い浮かんだのはその大好きな浅田次郎先生のコラム。私も飾らず、かしこまらずに、あまり知られていない「カーリング選手」としての生活やチームでの普段の様子、そして結婚生活などのありのままの日常を綴っていけたらと思っています。もちろん私は日本を代表する小説家でもなければコラムニストでもなくカーリング選手のため、文才もなければ語彙もなく誤字脱字も多いかと思います。特に誤字脱字は日常からとりわけ多く、先日も(株)アドヴィックスの取締役社長である大竹社長にお会いした際、「ちなみちゃん、電報のお礼状わざわざありがとう。でもねデンポウのデンは電話の電だよ。伝報になってたよ!笑でも気持ちは伝わったよ!」と温かく優しいご指摘をいただきました。(大変失礼いたしました。)
というように、皆さまぜひ大竹社長のような温かな目で見ていただければ幸いです。笑

そんな私は現在、成田空港のレストランでこの原稿を書いています。
空港に到着してからすでに、チームトレーナーさんの商売道具である整体ベッドを羽田空港のターンテーブルに忘れるなど、ロコソラーレらしいカナダ遠征の幕開け。何年たっても相変わらずな自分達に笑い合っています。(ベッドは無事にマネージャーさんがピックアップし成田空港に届けてくれました。)

突然ですが、私には「べきべき人間」の一面があります。
べきべき人間とは「ああすべき、こうすべき」と頭が固く物事の捉え方に柔軟性がない状態のことを私がそう呼んでいます。周りの人や、他人のことに関してはその一面は出てこないのですが、自分のことになると自らで設定した予定や目標などの道筋をずれてしまうと「こうすべきだったのに!ああすべきだったのに!」と勝手に自分を追い込んで、これまた勝手に落ち込むことがあります。とても面倒な一面で、私はずっとこのべきべき思考を手放して、常に柔軟で肩の力が抜けたフレキシブル思考を身につけたいと思い続けています。ただ、心も習慣。生活習慣と同じで、普段思っていることが性格となって心が形成されていくので、日々意識して過ごすしかないと自分に言い聞かせています。そんな私にとって、脱「べきべき人間」の最適な訓練の場が、このカーリング選手としての生活なのです。

ロコ・ソラーレとしての生活は1年の約半分を日本のどこかで過ごし、残りの半分をカナダを軸に世界のどこかで過ごします。おおよそのスケジュールは立てることができますが、1ヶ月後にどの都市でどの大会を戦うのかは勝敗により大きく変更になることもあるため、日々の予定変更は当たり前。それに加えてコロナと共生している現在は、「予定通りにはいかない」ということが通常と仮定し日々過ごしています。先述したべッドを失いかけるハプニングは序の口で、過去には悪天候のため予定していた帰国フライトが飛ばず、なおかつ全員一緒に帰れる代わりのフライトも無く、しかたなくジャンケンで3組に別れ、それぞれスコットランドから違う国を経由しがんばって気合で日本に帰国するという現地解散スタイルの遠征もありました。こんな生活を送る中でチームでいつも声に出し確認しあう合言葉のようなものが出来ました。それが、「be flexible」。日本語で「柔軟でいよう」という意味です。ロコ・ソラーレでカーリング選手として生活する上で「柔軟でいる」ということは大きなポイントでもあり、べきべき人間の私にとっては最大の挑戦でもあります。
そんな多拠点カーリング生活に加えて、私は2022年の夏に婚約者であったアルペンスキーコーチの河野恭介さんと結婚し夫婦となりました。彼の仕事場は主にヨーロッパを中心とした世界中の雪山です。世界中の氷上と雪上を拠点に生活する私たち夫婦が選んだ結婚生活は「多拠点婚」。ロコ・ソラーレでの多拠点生活に加えて結婚生活でも多拠点に挑戦することにしました。べきべき思考を手放したい私にとってはまたまた新しい挑戦の機会を得ることができました。というよりも、ここまでくるともはやショック療法です。
急にスケジュールが変更になり会えなくなることもよくあります。そんなときはもちろん寂しいです。が、ロコ・ソラーレとしての生活で得た「Be flexible」の心のスキルを応用活用すると、「寂しいのではなく、次に会う楽しみが一年中、常にある。」そう思えたりします。

べきべき人間のカーリング新シーズンがスタートし、これからカナダ ブリティッシュコロンビア州の小さな町、バーノンで一大会目がスタートします。何が起こるかはわかりませんが、何か起こることだけはもうわかっています。でも何が起きても「こうするべきだったのになんで私はいつもダメなんだ・・」と自分を責めるのではなく、「ダメな自分ができたらすごい。この状況もこれはこれで良き!」と柔軟に肩の力を意識してちゃんと抜き、心地良いシーズンにできるように頑張ろうと思います。

これが私の今シーズンの裏目標。「べきべき」から「よきよき」へ。こちらもこのコラムの誤字脱字と同じく、温かく見守っていただけると幸いです。

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