吉田知那美のコラム Vol.18

Yoshida Chinami Column VOL.18

憧れの人と熱々の蕎麦の話

私には勝手にメンター的存在として憧れている女性が何名かいます。
そのなかでも、私が今もっとも強く憧れ、惹かれているのが肉乃小路ニクヨさんです。
その独特なお名前で察する方もいらっしゃるかと思いますが、ニクヨさんはゲイカルチャーのなかの「ドラァグクイーン」というジャンルでデビューし、1999年にはドラァグクイーンの全国大会で優勝し、初代Miss.DIVA JAPANという称号も得ている女装家さんです。
ニクヨさんは慶応義塾大学卒業後、金融業界でキャリアを積んできた経験から現在は経済愛好家、そしてコラムニストとしても活躍されています。
そんなニクヨさんは自身を形容する肩書として「ニューレディ」という言葉を用いています。

私がニクヨさんの存在を知るきっかけになったYouTubeチャンネル「flier公式チャンネル」 ※1 で自身の肩書き「ニューレディ」について、『ドラァグクイーンの「クイーン」という響きが少し高圧的すぎるかなと。憧れている女性や目指している女性はどちらかというと「レディ」と言われる感じ。また、普通の「レディ」として世の中に受け入れてもらおうとするのは厳しいかなと思い、頭に「ニュー」と付け、「新しいレディ」とすることで受け入れてもらえるのではと考えました。「ニュー」という形容詞はさまざまなチャレンジも許されるような前向きな言葉なので、「ニューレディ」と名乗っています。』と、聡明でいて柔らかな言葉で説明されています。ニクヨさんの言葉は総じて角がなく前向きで優しいのも憧れちゃいます。
ニクヨさんはご自身の公式YouTubeチャンネルの他に、flier公式チャンネル「わたしたちの眠れない夜」、ダイヤモンド公式チャンネル「ニクヨのマネー迷宮」などのレギュラーコーナーを持っており、私は視聴登録してその更新をいつも楽しみにしています。
言葉選びや所作、相槌一つまで気品あるニクヨさんの姿を、ひと昔前でいうところの「テープが擦り切れるまで観る」ような気概で見漁るようになったきっかけの動画があります。

それは2023年12月3日にアップロードされたflier公式チャンネル内の動画で、著述家湯山玲子さんとの対談回です。
湯山さんとの会話の中でニクヨさんはご自身の人生の舵きりをする際にはいつも『自分の人生に対して、「自分が人生の経営者である」という考えを持つ。』というお話をされていました。
「自分の人生の経営者は自分。」
人生にはさまざまな選択の場面があるが、自分自身が人生の経営者だと考えると、その選択や行動が「投資」なのか、はたまた「浪費」なのかも判断がしやすくなると。
きっと、それは社会で生きていく上では当たり前の考え方なのかもしれません。でも、その当時の私にはまったくもって欠如していた考え方でした。(お前さん、よくここまで生きてこれたな、と思ったコラムを読んでくださっている人生の先輩方、優しい目で見守ってください。)
ニクヨさんの言葉は、その当時のわたしにとって、部屋の空気の総入れ替えをした時のような、とても爽快なインパクトをあたえてくれました。
もっとお話したい気持ちですが、せっかくならニクヨさんの生の言葉で味わって欲しいので、flier公式チャンネルDigTalkでご覧ください。

20代の頃は、「自分の人生の意味」みたいなものがあるんだ、と考えてました。あと、「あなたにとっての人生(カーリング人生)の意味とは?」と問われるような機会も幾度かあった気がします。そのたび、いちを一生懸命考えてた
気もします。
でも30代になり、何より父の死を経験し、今思うのは、「人生にとりたてて大きな意味などはなくて、死ぬまでの時間をどう使うかどうか、それだけなのでは?」という考えに変わってきたということです。
人生の意味なんて分からない。でも、間違いなく終わることだけは分かっている。ニクヨさんの言葉をお借りするなら、その時間の経営管理責任者が、他の誰でもない、私だということ。
終わりがいつなのかが分からないので曖昧になりがちですが、日本人の平均寿命ではなく元気に働けるを基準に、一般的な定年退職の年齢である60歳に設定した場合、残りは約26年。たった26年間という時間の経営者として私は何に時間を使い、どんなことに投資し、そして誰と一緒にどこでどのように暮らすのか。そんなふうに考えるようになってきました。
あくまで想定なので、それ以上に元気に働けるかもしれないし、その前に体の限界が来てしまうかもしれない。それでも、ニクヨさんの言葉を胸に今日も自分の人生の経営責任者として、「どう生きよう」「何を学ぼう」「どう働こう」と同様に、「今日、何食べよう」という問題にも真摯に向き合おうと試みるのです。

ちなみにこのコラムは京都から東京へ向かう新幹線の中で書いているのですが、時刻はちょうどお昼時。新幹線の出発時刻までの25分という時間で、夫と腹ごしらえをするためにお蕎麦屋さんに入店しました。お蕎麦なら時間がなくても、さっと食べてちゃっとお会計ができるので。でも、そんな時でも食事にはできるだけしっかり向き合いたい。なので私は「せっかく京都にいるのだから」と考え、湯葉豆腐そばを注文することにしました。
一緒に頼んでおいた瓶ビールで乾杯し、あてのニシンの佃煮をつまみながら待っていると何分も経たず、美味しそうな湯気をまといお盆に乗せられたお蕎麦が運ばれてきました。
夫はそのお店の発祥であり名物のにしんそば。そして私が頼んだお蕎麦が…なんと、「あんかけ」湯葉豆腐そばだったのです。
思わず、どんぶりの中の湯葉豆腐そばよりも先にiPhoneに表示されている時刻を確認。
その時点で私に残された時間は約15分。
15分で、この世で一番冷めにくい食べ物「あんかけ」を完食するという急なミッションをかしてしまった自分を心の中で責めてしまいそうになりながら、「食事を楽しむんだ!味わうんだ!」と強く言い聞かせます。
にしん蕎麦を頼んだ夫は美味しそうに蕎麦を口に運んでいます。
「ちな、一口食べてみて」
と、夫のにしん蕎麦のにしんをひとかけ、あーんと分けてくれます。いつなんどき優しい夫。でも、今この時の夫の優しさを「タイムロス!」と思ってしまう私。
そして、そんな時でも美味しいにしん。
15分であんかけが冷めるわけもなく、ひとくち口に運ぶたびに「強冷房みたい」と言われるくらい全力のフーフーをしながら、なんとかギリギリ完食したのでした。
あんかけを選んだ責任者は、私です。
またいつか、「時間の無い時の蕎麦屋での昼食選び」という場面に遭遇した時は、反省を活かし、おとなしくざるそばを注文し安心して味わおうと心に決めています。
「自分の人生の責任者は自分」というニクヨさんの言葉に感化されたと、かっこよく書き始めたコラムだったのに、最後はよくわかりませんが「蕎麦が熱かった」という話に着陸してしまいました。こんなはずじゃなかったのに…と私が一番思っていますが、話どこに飛ばしてるんじゃ、と思った皆さんすみません。どうか今後とも素人コラムニスト吉田知那美を温かく、いや、あんかけ湯葉豆腐蕎麦のように熱く、見守っていただければと思います。
「flier公式チャンネル」 ※1 本の要約サービスflierのYouTubeチャンネル。本を軸にしたインタビュー動画を多く配信しています。

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