オーストリアの小さな村で出会った「太郎さん」の話

あっという間に夏が終わり、今年もカーリングシーズンが到来しました。
ロコがこのメンバーを結成した当初、「世界で戦うチームになる」ことを目標に設定しました。その時、当時北海道女子カーリングアカデミーのコーチだったJDから提示された一つの数字がありました。「120」−それは年間で120試合をするという提案でした。その当時20歳〜22歳くらいの私たちは右も左も分からないどころでなく、前後すらも分からないような生まれたてのベイビーカーラー。「オッケー!わかった!やってみる!」と言いましたが、その数字がどれだけ大変なことかを思い知るのにはそう時間はかかりませんでした。それでも、負け続け、泣きながら戦い続けたその経験を大切に育て、初出場の世界選手権では「経験は皆無だけど・・・ここにいる誰よりも練習はしたもん!!」という、今考えると頼りなさすぎる、たったそれだけの「自信」を心の切り札に日本初の世界選手権銀メダルを獲得しました。実際に120試合には到達できませんでしたが、近いところまで戦った私たちはその後、「勝ちたい大会で勝つ」ために必要不可欠な「ピーキングとテーパリング」というスケジュール戦略を学ぶというステップを踏むのでした。

今シーズンロコはこの時に迫る試合数を目標に、現在も戦い続けています。過去に氷上練習、試合、フィジカルトレーニング量の比重を見誤り怪我をする選手が立て続き、思うようなパフォーマンスができなかったシーズンもあったため、怪我に対する危機管理はこの10年間の経験を最大限に生かし「健康第一」で戦い続けます。

「ピーキングとテーパリング」という概念を習得してから、ロコは「休息」にもこだわりだしました。カナダでの休息日でみんなのお気に入りのレクレーションの一つがワイナリー巡りです。夕湖はアルコール代謝が低いため基本的にお酒は飲みませんが、ワインが飲めない人が一緒に行っても楽しめるワイナリーもたくさんあります。特にブリティッシュコロンビア州にはたくさんのワイナリーがあるため、お休みができるとワイナリーへ行き美味しいランチやディナーをペアリングしてもらったワインと楽しみ、帰りには「優勝したら開ける用」のスパークリングワインを購入するというお決まりの流れがあります。

そんなこともあって、前置きが長くなりましたが私はワイナリー巡りが趣味の一つです。夫と結婚する以前も現在もデートの定番でもあります。お付き合いする直前のデートはロコ・ステラの詠理の両親におすすめしてもらった長野県東御市にあるヴィラデストガーデンファームアンドワイナリーでした。お付き合いして初めてのデートは北海道余市町のワイナリー、ドメーヌタカヒコへ。そして、新婚旅行には夫婦ともに大好きなオーストリアのワイナリーを訪ねることにしました。
そのワインは夫がオーストリアに住んでいた時に出会ったワインで、私にとっては夫(当時の友達)から送ってもらったプレゼント。いわば私たち夫婦にとっては思い出のワインでもあります。

そのワイナリーはブルゲンランド州のオッガウという小さな村にあります。名前はGUT OGGAU(グート オッガウ)といい、葡萄畑と小さな商店、小さな教会に古民家が立ち並ぶ街中に溶け込むようにそのワイナリーはあります。

ワイナリー見学とランチを予約していた私たちを迎えてくれたのは、このワインを作っているシュテファニーとエドアルトでした。
「はるばる日本から来てくれてありがとう!」と迎えてくれたふたり。するとシュテファニーが「あ、そういえば」と言葉を続けます。
「今日ちょうど、もう1人日本人が来てるから紹介するね。」と私たちをワイナリーの門をくぐってすぐの中庭に案内してくれました。その中庭に置かれた素敵な木のテーブルではなぜか鞄作りが行われていました。そしてシュテファニーが「こちら、タロウよ」と紹介してくれたのが、今回のコラムのタイトル、なぜかオーストリアの小さな村で出会った「太郎さん」でした。

この太郎さんの正体はオーストリアのウィーンを拠点におくブランドSAGAN VIENNA
(サガン ヴィエンナ)の創設者でデザイナーの大前太郎さん。太郎さんはこの時、オッガウとのコラボで発売を予定していたワインバッグの仕上げ作業のためにワイナリーに訪れていました。まさに自然発生的「世界の村で発見!こんなところに日本人」(テレビ朝日)です。

作業中だった太郎さんと少しお話しをさせていただき、お別れした後エドアルトの案内でワイナリーツアーへ行き、ふたりのワイン作りへの思いや歴史がたくさん詰まったワインをいただきながらランチを楽しみました。ランチをしながらシュテファニーがワインの説明をしてくれるのですが、その途中で「そういえばさっきタロウが作ってた鞄が出来上がって、私のお気に入りのコレクションルームにあるからぜひ見に来て。すごく素敵に仕上がったから!」と、彼女がコレクションルームと呼ぶ中庭に建っている小さなショップに案内してくれました。

そこはワインショップというより、シュテファニーが言うようにお気に入りを詰め込んだ可愛い雑貨屋さんのような雰囲気で、衣類や陶器、雑貨の中にさっき中庭で仕上げ作業が行われていた素敵なワインバックが置かれていました。

さっき出来上がったばかりなのにずっとここにあったように溶け込んだ柔らかさがあるそのバックは、私たちが夫婦になって初めて一緒に購入した宝物の一つになりました。ショップにはSAGANの他の作品もいくつか展示してあり、その中で一目惚れしたこのバッグもこの時にお迎えし、新婚旅行のお供となり、そして今も大切に一緒に年を重ねています。このバッグをお迎えしてまだ2年目ですがこれからも、幾つ年を重ねても大切にしていくんだと心に決めています。

この翌年、夫はウィーンで太郎さんと再会し、私も東京で行われたサガンとオッガウのイベントで太郎さんに再会することができました。
結婚してこの数年、好きなものと好きなものとが繋がって、また新しい縁に繋がり、好きの連鎖が起こっているような感覚があります。
このコラムを好んで読んでくださっているちょっと物好きな皆さんにも、このコラムを通し、いつか世界のどこかで好きの連鎖が起こりますように。

Facebook
X